第8話 情熱いっぱい
 ダッシュは困っていた。阿波校在籍のOさんが、50フリーを29秒で泳ぐ、と聞いてから、少し余裕がなくなりつつあった。
 他人を様々な「むふむふっ」で追い込むのは得意なのだが、あまり追い込まれた経験の少ないダッシュである。それまでは、いかにしてミケンに50バッタを泳がせようかということばかりを考えていたのだが、結局、自分があんまりなタイムを50フリーで出してしまうと、今まで培ってきた阿波校においての威厳が脆くも崩れ去ってしまうのだ。
 ダッシュは考えた。ここは、おとなしくOさんと同じ種目などに出ず、50バッタのみに専念しよう…と。そうすれば、きっと、Oさんとの単純な比較ができない分だけゴマカシがきくではないか。

 よって、ダッシュは6月のマスターズに向けて、誰よりも熱心に練習をするようになった。

 その姿が他人から見ると、とても情熱的に競泳に取り組んで見えるようになったのは、一種の皮肉な産物であろう。ミケンは焦った。このウェブ上において、50バッタにエントリーされることを通知され、愕然としている時なのに、ライバルであるはずのダッシュが情熱いっぱいの練習に取り組んでいるのだ。 …が、たまには、嬉しい誤算が自らにも舞い降りることを1本のメールで知った。それはバイオからのメールだった。

「皆様へ。6月のマスターズ。エントリー種目をお知らせします。ダッシュ・ミケン・スマイリー3人の必須種目は25バッタ。個人種目はダッシュが50バッタ、ミケンが50フリー、スマイリーが200コンメです」

ミケンは、胸をなで下ろした。

ミケン 「よかったわ。バッタやないねんや」
《ミケン》 「そうやな。ダッシュさんが、たぶん助けてくれたんやな、ビキビキ」
ミケン 「どんな魂胆かはわかれへんけど、これなら頑張れるわ」
《ミケン》 「そやでそやで、ビキャンビキャン」
 そんな安堵の影で、冷や汗を流している巨体が、いた。スマイリーだった。スマイリーは、さすがに競泳からかなり遠ざかっており、さすがに200コンメを泳ぐ自信がなかったのだった。悩んでいるところに、ダッシュ&バイオからメールが届いた。
バイオ&ダッシュ 「もし、何なら200コンメのかわりに、50バックでもいいぞ
スマイリーは、即答した。
スマイリー 「たとえ、掌の上で転がされていようとも、お受けします喜んで、50バックに出ます」
 こうして、6月のマスターズ。皆の種目が決まった。皆、情熱も新たに練習に取り組んでいる。TSDも必須種目を50という無謀なモノから25バッタに変更し、何とかおさまった。

 そして、最大の目標であるメドレーリレーに向けて、さらなる情熱とノルマが水泳部員を襲うことになるのだった…。

(また、続きまくらせていただく)

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