第7話 権謀術数(けんぼうじゅっすう)
【意味】人を陥れるはかりごと。
 6月21日。バイオ&ダッシュが先に到着して、淡々と練習に励んでいた。2人は、とにかく自分のノルマをさっさと片づけてしまい、アーじゃコーじゃとハイパー&ミケンの泳ぎを批評する。それだけではない。時折は、後ろから追いかけて、プレッシャーをかける。そんなひそかな楽しみと喜びを持っている。
 やはり、この日もさっさと自分のノルマを2人が片づけた頃、ようやくミケンがやってきた。少し遅れてハイパーもやってきた。
 ある程度、泳ぎ疲れてへロへロになっていたバイオが、ボンヤリとミケンの泳ぎを見ていたところ、ミケンは続けて100メートルくらい泳いでいるではないか。それを見た瞬間、バイオの脳裏に、単純すぎる考えがプワンプワンとふくれあがっていった。そして、その考えをすぐに言葉として発するのをためらいつつ、ダッシュに言った。
バイオ

「なあ、ダッシュ。そろそろミケンにターンを教えてやってくれよ」

ダッシュ 「んっ? …! …むふむふ」
バイオ 「何を考えてるか、わかるよな?」
ダッシュ 「もしかして…ですか?」
バイオ 「もしかして、だよ」
 そこに、たまたま泳ぎ終えたミケンが戻ってきたのだ。ミケンの内部で《ミケン》が叫ぶ。
《ミケン》 「おいっ、ターン、とか言うてるで、もしかして新しい種目とか考えてるんちがうか、ビキャンビキャン」
ミケン 「あの2人、すぐオレを陥れようとするからな」
 そう、その通りである。バイオ&ダッシュは他人にとっても厳しく、しかも「陥れる」のが大好きな、権謀術数を使いまくるヤツらなのであった。そうこうしてるうちにバイオの口から、やはり妙な距離(数字)が飛びだした。
バイオ 「100!」
ダッシュ 「100? …!」
ミケン 「100…無理です」

 四国進学会水泳部の会則に「無理という言葉は存在しない」という項目が最近付け加えられたのを、ミケンは知らない。無論、誰も知らない。

 ああ、ミケン。もしかして50バタフライを拒絶したら、100フリーが待っているのではなかろうか、という危惧が、まさしく現実になろうとしている。ミケンは、悩んでいる。さて、バッタか、はて、100か。ふと、前を泳ぐハイパーを見るミケンの目には、ハイパーが背中で笑っているように見えた。2人に抵抗しようとしたミケンだったが、2人は、自分たちのノルマを既にこなしているので、さっさと上がってしまい、プールに取り残されたまま『夏至』だというのに背筋が寒くなるミケン。ミケンの新たな苦悩が、2人によって作られたのであった。

(ブルルンッ)

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