第6話 用意周到(よういしゅうとう)
【意味】用意がよく、いきとどいていること。
 蔵本で行われる徳島県勤労者大会が、着々と近づきつつある。ハイパーもミケンも、1週間の生活に水泳を取り込んだリズムへもようやく慣れはじめていた。ミケンは1年前からの生活だが、ハイパーはわずか何ヶ月か前までは、ただの傍観者、であったのだから、順応力おそるべし、である。だが、生活パターンに慣れたからといって、蔵本の大会で「楽」に泳げるわけではないし、蔵本の大会が消えてなくなるはずもない。結局は、いつか、あの長い長い蔵本の50メートルプール、いわゆる長水路で泳がねばならないのだ。
 昨年、その長さをイヤというほど実感したミケンは、今年は用意周到、しっかりと「50メートルを視野に入れて」トレーニングをしているので負担は、大きくなさそうだ。しかし、昨年のミケンと同じ状況に追い込まれたハイパーは、毎年、撮影しに行くたびに「長い…。当事者でなくてよかった…」と思っていた、あの蔵本で自分が溺れ…もとい、泳ぐ姿を想像するだけで、ゾッとするのであった。
 だが、さすがにハイパー。男の中の男、だからこそ、鍛錬をたゆまなく続ける。山の中腹にある家から愛車をバヒューンッと駆り、週に数回、泳ぐのだった。敬愛するスミカコーチのレッスンに加え、『スイム600』に精を出し、距離が長くなっても対応できるよう、用意周到、トレーニングをするハイパーも、やはり昨年のミケンの無様な姿を思い出していた。思えば、あのレース後、ミケンに感想を求めてカメラを回していたのは自分だったのに…。ハイパーの回想が徐々にセピア色に埋もれ、ガシャリンと壊れた時、やはり現実には1ヵ月先に迫った蔵本がメラリンッとした悪い顔で立ちはだかっている。

 しかし、とにかくユウウツであることにかわりはない。

 一方のミケンは違う意味でも用意周到だった。あのバイオ&ダッシュが単に50フリーだけで許してくれそうもないのは、重々承知している。バッタが、待っているのだ。しかも、四国進学会水泳部最大の理解者にして、最悪の部外者である水泳連盟のお偉いさんである松岡さんも、軽く「いけるんちゃうか」と、無責任な一言を放つだろう。そうなっても大丈夫であるように、バッタの練習も欠かさない。

 やはり、2人とも、なかなか用意周到。さすがに精鋭の集うイーズアカデミーの講師である。しかし…その上をゆく悪人、バイオ&ダッシュが、そんなもんで終わるはずがない。6月21日(火)の合同練習中、またバイオとダッシュがむふむふニヤリで会話しているのをミケンは小耳にはさんでしまった。

(ムフムフにやり)

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