第13話 紆余曲折(うよきょくせつ)
【意味】事情が複雑でいろいろ変化のあること。
 バイオは悪人であるにもかかわらず、やや後悔していた。そもそも、ミケンとハイパーを水泳の世界に引き込んだものの、確かに50バッタが、初心者には、とてつもなく苦しいモノであろうことは、自らの体験からも重々承知している。バイオとて人の子。苦しいことが好きなわけではない。しかも、バイオは4年前、蔵本で50バッタを1人だけで泳ぎ、途中から完全に『浮いた』経験を持っている。競泳経験者であるバイオでさえ、そんな状況なのだから、やはり、ミケンには荷が重いだろう…、そう思ったバイオは、考えに考えた。
バイオ

「うーん…ここでバッタに出すのも、はっきり言ってネタ的に、めっちゃおもしろいし、笑えるわな。でも、下手にオレのおらん蔵本で…惨事になったら、責任の取りようがないなあ。その日は、オレが長野におるわけやし。……うーん…しかもしかも、ミケンがへそを曲げたら、せっかくここまで引っ張ってきた水泳部日記の数々が終わってしまうしなあ…」

 バイオは、結局、ミケンのことではなく、自分の都合で悩んでいたのだった。そして、決めた。
バイオ 「よっしゃ、今回は、とりあえず50フリー1本やな。そのかわり、ここで35秒を出さなかったら、3月のマスターズには100バッタに出したろうや! 35秒を今回出せば、2年後の実業団、30歳以上の部で標準記録を切るくらいのレベルにまでいけるやろ」

 またまたミケンのことなど、一切考えないで決めるバイオは、究極の悪人だった。

 今回、結局、紆余曲折ありつつもハイパーとミケンは2人とも50フリー1本のエントリーに決まった。残る日々はわずかだが、2人は多忙なスケジュール縫って、練習時間を確保している。
 水泳歴で勝るミケンのキャリアが勝つか、
 先輩の意地でハイパーの根性が追い抜くか。

 この決着は、7月31日(日)、蔵本において、わかる。青く光る空の下。灼熱の太陽に祝福されるのは、果たしてハイパーか。それともミケンか。
 2人の、「蔵本への短く険しい夏」が完結しようとしている。

(ミシミシ&ビキャーン)

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