第9話 花より団子
 6月23日(水)、朝から森田はウキウキワクワクドキドキ…という様々な感情に包まれていた。

「今日は○○さんのスクールに入る日や。オレもオリンピック選手に教えてもらえば、速くなるやろ…でも、○○コーチの練習が、厳しかったらどないしよう…」

 森田の眉間は、そのたびごとに、谷間を作ったり、伸びきったり。忙しい朝であった。

 さて、プールに着くと、バイオ&ポイズンが既に泳ぎ終えて、上がろうとしていた。バイオがニヤリニンマリと森田に笑顔を向けた。森田の眉間が何かを察知した。

眉間 「んっ?あのバイオさんのニヤリニンマリは、何かあるで」

 その瞬間、バイオが近づいてきた。眉間は、バイオが10分前に○○さんに、こんな頼みをしているなどと知る由もない。

 10分前 シャワーにて

バイオ 「あのな、今日、ウチの森田がスクールに入るからヨロシク」
○○ 「はい」
バイオ 「実は、この前のマスターズに出てもらって、17秒だったんよ」
○○ 「へえっ、そうなんですか」
 ○○さんは、どうコメントしてよいやらわからずに困惑している。なにしろ、○○さんは、2回続けてオリンピック出場しているツワモノだ。バイオの真意をはかりかねていた。
バイオ 「ほんでな、今度、蔵本の勤労者に50でエントリーすることになったんよ」
○○ 「はあっ」
バイオ 「ほなけん、何とか35秒台で泳がせてな」
○○ 「…」

 バイオの強引さは、絶句を引き起こした。
 しかし、森田は、何も知らない。

 スクールの前に体操をしてプールに入る森田は、やはり緊張していた。少し年齢層の高めのお姉様方に混じって、すっかり浮いている森田は、できるだけ後ろの方にポジションを取ろうとした…が、巧みなお姉様方は、スルリと位置を変え、森田を先頭に押し出した。呆気に取られている森田の困惑をよそに、スクールが始まった。

 森田は、楽しそうだった。最初のキックさえ、苦痛ではなく、楽しく眉間に皺を寄せていた。そんなこんなで、○○コーチの30分を堪能した森田は語る。

「オレ、毎週、○○さんのスクールに出ますよ。だって、速くなるとか、そんなん関係なく、楽しかったんすよ!

 森田は、一つ、水泳のイロハが見えたような気がしていた。そして、これが「楽しい授業」なんや…という、仕事への還元も忘れない、研究熱心な一面を見せたのであった。速くなる、つまり「花」のためのスクールだったが、水泳の楽しさという「団子」をおいしく頬張った森田が、また一つミシミシと成長していた。

 えっ、○○は誰か? 申し訳ありません。まだ、ナイショです。だって、森田のスクール参加が、まだまだ続くのですから。

(以下、次回へ。)

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