第5話 一寸先は闇
 6月8日、火曜日。森田は、朝からなんだか不安でしかたなかった。梅雨入りのせいで、むずむずするというのでもなく、とにかく、ご自慢の眉間の皺がプルプルするのだった。そんな、皺の震えによる前兆は当たっていた。朝っぱら、塾講師には真夜中とも言うべき8:54にバイオからメールが入ったのである。
バイオ 「朝って、何時から泳げるの?」
森田は、大きく眉間で吐息をついた。
《眉間》 「せっかく、最近満喫しとる朝のプールでのひとときやったのに。バイオさんが泳ぎに来るんや…」

 少し憂鬱を抱えながらも、森田は愛車に乗り込んだ。たとえ、バイオがいようとも、「オレはオレや」と思いながら、車を走らせた。愛車白いセリカは、今日もご機嫌だぜ! 森田は、ハミングなんぞをしながら、プールに到着した。すると。なんと、ダッシュの車も既に駐車場にあるではないか。

《眉間》 「なんてことや。バイオさんもダッシュさんも本気や。負けてられへん」
急いで着替えると、既に準備完了したバイオとダッシュが眠そうな目をしている。
《眉間》 「ふふっ、この二人は、朝からは泳げへん。オレは早起き森田やぞ…」

 森田は、口では「おはようございます」と言いつつ、心と眉間の皺で呟いた。
 しかし、よくよく考えてみれば、水泳部の三人が合同練習するのは、これが初めてではないか。二人の泳ぎを参考にしようと思いつつ、マイペースを守りたい葛藤に襲われていた森田だった。
 予想に反して、二人は…いや、二人こそマイペースを守っている。森田は安堵する。そして、朝のノルマを終えようとした時、二人の妙な姿が目に入った。今までは黙々と泳いでいた二人が、プールの中程で背泳の練習をしているのだ。

《眉間》 「そうや、ダッシュさん。オレをエントリーさせるならバタフライに出るって言うてはったのに、確か背泳に出るんや。そういえばバイオさんもか。大変やな。でもオレには関係あれへん」

相変わらず饒舌な森田の眉間は独り言を言い続ける。が、次の瞬間、バイオがクルリっと振り返った。

バイオ 「おい、モリタ君。背泳してみろや」
森田の眉間が強烈な谷間を作る。
森田 「えっ、泳げないっす」
バイオ 「まあ、教えたるから」
《眉間》 「よけいなお世話や」
森田 「はあっ」

 森田は、無事25メートルを完泳した。森田の後ろでダッシュとバイオが優しく見守りながら言葉を交わしていた。

ダッシュ 「あれなら、蔵本、出られますね」
バイオ 「そのつもりやんけ、最初から」

 大会デビューも果たしていない森田の上に、次なる不幸が訪れようとしている。

(以下、次回へ)

<<水泳部TOPへ