第11話 口は禍の元
 大会の前々日、森田は初めて50メートルのタイムを計ってみようと思い立った。ミケンが、またしても呟いていた。
ミケン 「25でも、思い切り泳いだら、最後まで泳げたんや。だから、できるはずやで」

 森田は、その言葉を胸に、そして、心の支えでもある純夏コーチから教えてもらったアドバイスを胸に、思い切り泳いでみた…。
 が、しかし…後半のバテかたはひどく、不安が頭の中でグルグルと回りはじめた。

森田 「いかん、蔵本のプールは長いんや。もし、こんな調子でバテたら、オレは溺れてまうやんか…」

 密かに小心者の森田は、びびっていた。びびりながら当日を迎えてしまった。
 朝から快晴。森田のミケンが今日も皺をギンラギンラと波立たせている。しかし、心の中は大雨、いやいや、むしろ台風だった。
 実際に見た蔵本の50メートルプールの長いこと長いこと。眩暈さえしてしまいそうだ。しかも、ダッシュは、余裕の面持ちで開会式後、寝ている。
 不安なまま、昼休みを迎え、アップをしにプールに入った森田は、愕然とした。

  森田 「長い……」

 そんな不安は絶望に変わり、絶望を抱えたままレースは近づく。
 ところが、レース直前、心の支えである師匠源純夏さんが、一瞬だけ顔を出してくれたのだった。彼女は一言、

「最初は楽に泳いで、ラスト5メートルだけは頑張ってください」

とアドバイスをくれたのだ。だが、森田は、それを勘違いした。源選手レベルの「楽に」というのは、全力の95パーセントくらいなのであろう。要するに、「力みすぎるな、ガチガチになるな」というアドバイスなのだ。しかし、森田は、本当に「楽に」泳いでしまった。
 ダッシュのスピードについていけず、ゆったりと泳いだ森田。皆の注目を集めていただけに、残念な結果(目標より10秒遅かった)に終わった。
 泳ぎ終えた後、源さんは、こう慰めてくれた。

源さん 「森田さん、毎年、5秒ずつ縮めていきましょう!」
森田 「はい…」

 口は禍の元。
 森田の16年度の活動は終了した。しかし、来年、5秒縮めるために、森田は人知れず努力することになったのである。

 また、来年、「森田パパのドタバタ水泳部日記」で、お会いしましょう。

(了)

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