第1話 青天の霹靂
 悲劇は突然、人の運命の上に降りかかってくる。

 昨年、和美さんという美しい奥さんをもらい、なおかつ私生活においては、マスオさん状態ながらも、奥さんの家族と微笑ましくも幸せな毎日を暮らしていた、数学科の若きホープ森田耕平。彼は、仕事も私生活も、はたまた、趣味の競馬も順調な毎日を満喫していた。仕事は、つらいけれども、得られる喜びの大きさは言葉では表現できないほど素晴らしい。彼は、時折、周囲に人がいないことを確認して呟く。

「オレは幸せや・・・」

 しかし…。彼の幸せを崩しにかかる悪い人々が、まさか同じ会社の中にいようとは! その名は、バイオレンス山本ダッシュ吉田であった。

 彼らが水泳部の活動を始めてから数年が経った。彼ら二人は、毎年、新入部員を探して、やたらと声をかけまくっていた。それは、普段の仕事から、飲み会まで。そんな魔の手が自分の上に忍び寄っているとも知らず、森田は二人と酒を飲んでいた…いや、我が社の慣例通り、酒を浴びていた。

バイオ 「おい、ダッシュ。今度の6月にあるマスターズ大会、今回こそはバタフライに出ろよ」
ダッシュ 「えっ、まじっすか、バイオさん…ちょっと、バタフライは、きついっすよ」
バイオ 「そんなことないって。オレも苦手な背泳に徳島県の30代スイマーたちと一緒に出るしなあ」
唐突に話をふられて困ったダッシュは苦し紛れの一言を放った。
ダッシュ 「わかりました…そのかわり、森田選手をデビューさせましょう

 こちらこそ青天の霹靂。森田は、片手で持っていたジョッキを握りしめたまま、自慢の眉間の皺も伸びきってしまうくらい呆然としていた。

 その日、森田耕平のデビューは、本人の意志に関わりなく決定した。

(以下、次回へ)

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